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鉄欠乏性貧血の症状・検査・治療について

鉄欠乏性貧血の症状・検査・治療について

 生体内でヘモグロビンの合成に不可欠な鉄が欠乏し、ヘモグロビンがの合成が十分に行われないために生する貧血です。日常最も多く見られる貧血です。私達の体は鉄を作り出すことは出来ませんので食物から補給することが必要です。成人男性で毎日約1mgの鉄が失われます。一方、通常摂取された鉄はその約10%が吸収されますので、1日約10mgの鉄を摂取しなければいけません。成人女性の場合には月経による出血で1日平均2mg、さらに妊娠中の女性は1日平均で3mgの鉄が必要となり、それぞれ1日20mg、30mgの鉄を摂取しないと鉄の不足状態となります。鉄の不足分は体に蓄えられている貯蔵鉄(通常約1000mg)から供給されますが、貯蔵鉄が枯渇すると鉄欠乏性貧血が現れてきます。

<原因>
1、月経過多(子宮筋腫、子宮内膜症など)
2、慢性的な出血(潰瘍や腫瘍による消化管出血、痔からの出血)
3、成長期や妊娠などの際の需要の増大
4、胃や十二指腸切除後などの吸収不良
                     その他

鉄欠乏性貧血の症状

動悸・息切れ・易疲労感・全身倦怠感・浮腫・立ちくらみ・顔面蒼白などの貧血の一般的な兆候の他に爪がスプーン状になったり、希に口内炎、舌炎、嚥下障害(Plummer-vinson症候群)などが見られることもあります。貧血が徐々に進むことが多いため、ヘモグロビンが6~7g/dl位まで減少していても、体が順応して明らかな貧血症状が見られないこともあります。
*プライマービンソン症候群とは、鉄欠乏の最終形態、すなわち組織鉄欠乏の状態では匙状爪 、舌炎、嚥下障害が現れます。とくに、低色素性貧血で、嚥下困難・口角炎・舌異常( 嚥下障害)を合併するものをPlummer-Vinson synd.と呼びます。鉄欠乏性貧血の7~19%の患者さんに発症します 。


~鉄欠乏性貧血の検査~

血清生化学検査 鉄が欠乏するので、血清鉄が減少し、血清フェリチン(貯蔵鉄量を反映する)が減少する。また、総鉄結合能(TIBC)、不飽和鉄結合能(UIBC)が上昇する。
末梢血塗沫染色標本検査 造血能が保たれていれば赤血球の数が相対的に多く、中身が相対的に不足して小球性低色素性貧血を来たす。赤血球は中身が減って薄っぺらくなる。薄っぺらくなった赤血球を菲薄赤血球と言う。様々な大きさの赤血球が見られる。様々な大きさの赤血球を大小不同の赤血球と言う。大小不同の菲薄赤血球が見られる。また、網状赤血球も減少する(数値的には正常のこともある)。

血液検査

Hb(ヘモグロビン)
g/dl
ヘモグロビン(血色素)は赤血球中の主成分で酸素の運搬を担うタンパク質の量.これらが基準範囲より少ない場合は貧血,多ければ多血症と診断します.
基準値
男13.7-17.4
女11.3-14.9
Ht(ヘマトクリット)
ヘマトクリットは血液中に占める赤血球の全容積の割合です.これらが基準範囲より少ない場合は貧血,多ければ多血症と診断します.
基準値
男40.2-51.5
女33.6-44.6
MCV(平均赤血球容積)
fl
貧血や多血症の診断に用いられる検査である。ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット(Ht)とともに、赤血球数から赤血球1個当たりの平均容積(MCV)、平均血色素濃度(MCHC)などの赤血球恒数を算出し、貧血の病態分類が行われる。
基準値
85~102 f

MCH(平均赤血球色素量)
pg
貧血や多血症の診断に用いられる検査である。ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット(Ht)とともに、赤血球数から赤血球1個当たりの平均容積(MCV)、平均血色素濃度(MCHC)などの赤血球恒数を算出し、貧血の病態分類が行われる。
基準値
28.0~34.0

Fe(血清鉄)
μ/dl 
血液中に含まれる鉄です.鉄欠乏性貧血や出血,感染症などで減少し,頻回な輸血などで鉄過剰となります.
基準値
男54-181
女43-172
フェリチン
ng/mL 
フェリチンは水溶性の鉄貯蔵蛋白で、組織中の鉄濃度により変化するため、鉄欠乏性貧血などの鉄代謝異常の指標とされます。また、肝臓、脾臓、骨髄、心臓、肺などが障害されると血中フェリチン濃度が上昇するため、炎症反応や悪性腫瘍などの腫瘍マーカーとしても使用されます。
基準値
20~250ng/mL
 5~120ng/mL
 TIBC
μg/dL
総鉄結合能は血清鉄と不飽和鉄結合能の和です。
血清中のトランスフェリンは1/3が鉄と結合し、2/3は鉄と未結合の状態で存在しています。
総鉄結合能とは、血清中のすべてのトランスフェリンが結合できる鉄の量のことです。
鉄欠乏性貧血のように、鉄の量が減少するとトランスフェリン量が増加するので、総鉄結合能も増加します。
男253~365
女246~410


鉄欠乏性貧血の治療

原因疾患に対する治療と鉄の補給を行います。

1、鉄欠乏性貧血は不足している鉄を補給する事で、大部分のケースで簡単に貧血は治癒します。しかし、欠乏症の原因を治療しない限り高率に再発しますので、その治療が非常に大切です。
 特に60~65歳以上の高齢者の鉄欠乏性貧血では、約60%が消化管悪性腫瘍などの悪性疾患によると報告されていますので、注意が必要です。

2、鉄剤の服用と同時に食事療法を併用することは大切な事ですが、食事療法だけでは足りなくなった鉄を補充するには到底不十分です。鉄分が最も多い事で知られているレバーでも1食分(50g)の鉄の含有量はわずか6.5mgにすぎません。鉄剤は通常50~200mgを服用します。

3、一般に鉄欠乏性貧血と診断され鉄剤を服用した場合、平均0.1~0.2g/dl/日のペースでヘモグロビンが増加し、約1~2ヶ月でヘモグロビンは正常化します。しかしその時点ではまだ貯蔵鉄は十分に補充されていませんので、さらに鉄剤を服用する事が大切です。貧血の程度・鉄欠乏の原因により違いはありますが、半年~1年かかることが一般的です。
 貯蔵鉄の状態を調べるために、血清フェリチン値を測定を行います。フェリチンの値が20ng/dl以上あれば貯蔵鉄が十分量まで補充されたと判断し、鉄剤投与を中止しますが、貯蔵鉄を十分回復させても、鉄の喪失の原因が続いている場合は再発しますので、半年~1年後には一度フェリチンを含めた血液検査で、チェックすることが大切です。

5、鉄剤の服用にあたっては、空腹時の投与が吸収の点では優れていますが、鉄剤には、胃腸障害(吐き気・嘔吐・下痢・便秘・心窩部痛など)という副作用が伴いやすいので、それを避けるために食直後または食事中の服用が必要となる場合があります。もし、食前の服用により胃腸障害を感じた場合は、自身の判断での服用方法を変えるのではなく、お医者様へ相談するようにしましょう。

6、鉄剤使用時のポイント
  • ビタミンC(アスコルビン酸)を一緒に服用すると鉄の吸収が促進するということで、併用される事がありますが、併用により消化器症状が増悪する場合もあります。
  • お茶などに含まれるタンニンにより吸収が悪くなる事があります。できれば鉄剤を飲む前後には、お茶などの服用は避けた方がベターです。どうしても飲みたいときには朝か夜のどちらか一方は、お茶類を避けていただければ結構だと思います。
  • 消化管粘膜からの鉄の吸収は体内の鉄不足量に応じて増減する事(mucosal block)が知られており、鉄欠乏状態が強度の時には鉄の吸収率も上がっておりますが、体内総鉄量の飽和に従って鉄剤中の鉄分の吸収率が自然と低下してきます。経口投与で鉄を補充する限り鉄過剰症が発症することはまずありません。
  • 鉄剤を服用すると便が黒くなることがあります。はじめは鉄の吸収率が高く目立たなかったのが、ほぼ鉄の補充が完了して吸収率が低下してきた頃に目立つ場合もあります。
  • 制酸剤やテトラサイクリン系の抗生物質の服用、ナッツ類の過剰摂取は鉄の吸収を妨げることが知られています。

鉄剤使用の際の注意点

逆に鉄剤を服用していると吸収が妨げられる薬剤もあります。キノロン系の抗菌剤やセフニジル(商品名:セフゾン)などが代表的なものです。
鉄剤にも色々な種類があり、胃腸障害の副作用が出にくいように工夫されていますが、Aという薬がダメでもBという薬なら大丈夫という場合も少なくありませんので、勝手に服用をやめずに、主治医の先生にご自身の症状を良くお話になり、体にあったお薬を見つけてもらって下さい。
どの製剤でも胃腸障害の副作用が強く、服用を継続出来ない場合には、非経口的に(静脈注射)で鉄を投与する方法を採用します。


主な鉄欠乏性貧血治療薬(鉄剤)

硫酸第一鉄(フェロ・グラデュメット、スローフィーなど):徐放性剤とすることで、胃腸障害の副作用を防いでいる。
フマール酸第一鉄(フェルムなど):徐放性剤とすることで、胃腸障害の副作用を防いでいる。
クエン酸第一鉄(フェロミアなど):胃酸及び消化管の食物分解産物の関与なしに吸収されるので食後服用に適している。
ピロリン酸第二鉄(インクレミン):シロップなので主に小児で用いられる。


主な鉄欠乏性貧血治療薬(非経口的補充)

鉄剤の服用で、消化器症状の副作用が顕著なとき、内服剤では鉄の吸収が十分でないときなどには、鉄を静脈注射で補給する事もあります。この場合投与された鉄は体内に蓄積されますので、あらかじめ鉄の必要量を計算し、過剰投与にならないように注意します。また静注用鉄剤では、アナフィラキシーショック・発熱・関節痛などの副作用報告がありますので、慎重に行う必要があります。なお、経口剤と非経口剤でのヘモグロビンの増加率はほぼ同じと言われています。


鉄欠乏性貧血の治療期間と予後

鉄欠乏性貧血は、いわゆる栄養欠乏と同じで、鉄分の補給さえ十分に行えば回復する疾患です。出血の原因が持続する場合は、鉄欠乏性貧血が再発することもあり、この場合は原疾患をコントロールすることが必要です。


鉄欠乏性貧血の予防

食事の中に含まれる鉄分は少なく、鉄欠乏性貧血の治療には適しません。明らかな鉄欠乏性貧血の場合は、鉄剤の服用が必要です。貧血の再発を防ぐためには、普段から鉄分に富む食事、すなわちレバー、魚、肉など吸収されやすい鉄分を摂取すべきです。また酢の物、ビタミンCに富む食事は鉄分の吸収をよくします。


鉄欠乏性貧血によい漢方薬

初期から中期にかけて使用します
十全大補湯
(じゅうぜんたいほとう)
体力が衰え、だるく疲れやすく、顔色(血色)も悪い場合に。重い貧血に用いる。
四君子湯
(しくんしとう)
比較的体力が弱く、疲れやすく、食欲不振があり、食後に眠くなるタイプに。
六君子湯
(りっくんしとう)
胃アトニータイプ(胃壁の筋肉の緊張が低下している状態)で、食欲がなく、顔色も悪い場合に。
加味帰脾湯
(かみきひとう)
体力がなく、倦怠感が強くて眠れず、気分が沈みがちで食欲がないときの貧血に。
当帰芍薬散
(とうきしゃくやくさん) 
女性の貧血で、ふだんから月経量が多い人や妊娠時に使う。


鉄欠乏性貧血によいサプリメント

●青汁
●大麦若葉
●クマザサ
●カゼインホスホペプチド
●クロレラ
●スピルリナ
●ビタミンB12
●ヘム鉄
●葉酸

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