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脳梗塞の前兆、症状と治療について|病気と栄養

脳梗塞の前兆、症状と治療について|病気と栄養

 脳梗塞とは、脳の血管が詰まったり、或いは、何らかの原因で脳の血液循環が正常の5分の1から10分の1くらいまで低下し、脳組織が酸素欠乏や栄養不足に陥った結果(一時的に脳の血液循環が悪くなる一過性のものもあります。)、その部位の脳組織が 壊死えし(梗塞)したものをいいます。

 この脳梗塞は、以前は 脳血栓症のうけっせんしょう(血管が動脈硬化によりだんだん細くなり、最後には詰まってしまう状態)と 脳塞栓症のうそくせんしょう(どこかにできた血栓がはがれて、 栓子せんしとなって脳に流れてきて詰まる状態)に分けられていました。

 しかし最近は予防的な立場からも、また脳梗塞が起きた直後の治療の面からも、脳梗塞を次の3つに分類することが多くなってきました。


ラクナ梗塞

 ラクナ梗塞とは、細い血管(動脈)が詰まることで起こる小さな脳梗塞のことをいいます。脳の血管は、太い血管から細い動脈へと枝分かれしています。その細い動脈である「穿通枝」に、直径 1.5cm 未満の小さな梗塞が起きた状態を「ラクナ梗塞」といいます。直径 1.5cm 以上の大きな梗塞はラクナ梗塞とは呼びません。
 ラクナ梗塞は日本人に多く、脳梗塞全体の約35%を占めています。また、日本人は遺伝的に細い血管が動脈硬化を引き起こしやすいとも言われています。
 しかし、以前はラクナ梗塞は日本で圧倒的に多い傾向がありましたが、現在ではアテローム血栓性脳梗塞が増加し、ラクナ梗塞との患者数の差はほとんどなくなってきています。

アテローム血栓性脳梗塞

 脳や 頸部けいぶの比較的太い血管の動脈硬化が、加齢、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などにより起こり、その部位で血管が詰まってしまったり、血流が悪くなったり、またはそこにできた血栓がはがれて流れていき、さらに先端の脳の血管の一部に詰まってしまう状態です。

心原性脳塞栓症

 心原性脳梗塞症とは、心臓の中で出来た血栓が脳の太い動脈に詰まり詰まってしまうことで起こる脳梗塞です。
 心原性脳梗塞症の原因となる心臓病でいちばん多いのが「心房細動」です。心房細動は不整脈の一種で、これにより血液を一気に送り出せなくなって血流の淀みができ、血液が固まって血栓ができやすくなります。
 心臓の中で発生する血栓は大きく、脳の血管まで流れると脳の太い動脈に詰まってしまうため、梗塞して影響を受ける脳細胞の範囲が広くなってしまいます。
 また、突然に発作が起こり、症状も強く現れるという特徴もあります。

脳梗塞の前兆、症状と治療についての内容一覧

脳梗塞の原因
脳梗塞の前兆
脳梗塞の症状
脳梗塞の検査
脳梗塞の治療
脳梗塞の予後
脳卒中の後遺症
1、脳卒中の後遺症~神経障害~
2、脳卒中の後遺症~高次脳機能障害~
3、脳卒中の後遺症~感情障害(気分障害)~
脳卒中の後遺症に対するリハビリテーション


脳梗塞の原因

 脳梗塞は、以前は 脳血栓症(血管が動脈硬化により序所に細くなり、最終的に詰まってしまう)と 脳塞栓症(身体の血管内にできた、血栓がはがれ、 栓子となって脳に流れてきて詰まる)に分けることができます。
さらに、最近では予防、及び脳梗塞の治療の観点から、脳梗塞を次の3つに分類することが常となっています。その3つとは、①ラクナ梗塞、②アテローム血栓性脳梗塞、③心原性脳塞栓症です。

①ラクナ梗塞

 ラクナ梗塞の原因は、「高血圧」により細い動脈に動脈硬化が生じることが最大の原因です。
高血圧は、血管の内側の壁に強い圧力を与えます。そのために血管の内壁が傷つき、硬くもろくなり、動脈硬化が発症してしまいます。動脈硬化が起こるとで、血管内腔が細くなり、血流がとだえて、脳梗塞を引き起こします。

②アテローム血栓性脳梗塞

 アテローム血栓性脳梗塞とは、太い動脈に動脈硬化が起こることで発症する脳梗塞です。脳の太い動脈に動脈硬化が起こり、血栓が発生して血管が詰まることで、アテローム血栓性脳梗塞が発症します。また、頸動脈に動脈硬化が発生しても、アテローム血栓性脳梗塞になります。頸動脈で血栓ができて、それが脳の血管へと流れついて詰まり、脳梗塞になる場合もあります。
 また、動脈硬化により動脈が狭くなっている状態で、血液の粘りが増すことで、血流が狭い部分へ血液を送ることができなくなり脳梗塞を引き起こすこともあります。

 動脈硬化には、「粥状動脈硬化」、「中膜硬化」、「細動脈硬化」、の3つの種類がありまが、そのうち、「粥状動脈硬化(アテローム動脈硬化)」がアテローム血栓性脳梗塞の原因となります。

 粥状動脈硬化とは、動脈の壁にLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が入り込み、お粥のようなドロドロとした固まりである「粥腫(アテローム)」がたまってしまう動脈硬化のことです。粥腫がどんどんたまっていくと、血管の空間が狭くなり、血流循環が悪くなってきます。そこへさらに、高血圧などにより力が加わることで、粥腫が破裂し、中身が放出されると、そこを修復しようとして血栓ができます。(これが原因で、狭くなっていた血管をふさいで血流を止めてしまう場合もあります。)

 脳で、粥状動脈硬化(アテローム動脈硬化)が起こり血栓による血流の停止が起こると、アテローム血栓性脳梗塞を引き起こします。
粥状動脈硬化は、糖尿病、高血圧、高脂血症などにより発生するリスクが高まります。また、肥満やタバコ(喫煙)でも、動脈硬化の発生・進行のリスクは高くなります。
 動脈硬化は加齢により誰でも起こりやすくなります。高齢者の方は特に生活習慣病や肥満、喫煙などにも注意が必要です。
 

③心原性脳塞栓症

  心原性脳梗塞症の原因は、不整脈の一種である「心房細動」や「洞不全症候群」、または「急性心筋梗塞」などの心臓病です。
また、心原性脳梗塞症は、「心臓弁膜症」により心臓に人工弁が入っている人にも起こることがあります。

 心房細動とは、心臓自体が作り出す心臓を動かす電気刺激がうまく伝わらなくなることで、心臓の動きが悪くなり、脈が乱れる病気です。心房細動になると動悸・息切れなどの症状が起こります。また症状を感じない場合もあります。

 洞不全症候群とは、心臓の上部にある心臓を規則正しく動かす働きのある洞結節の働きが悪くなり、そのためために不整脈が起こる病気のことです。洞不全症候群の症状は、動悸、めまい、疲労感、狭心痛、失神発作などを繰り返し起こします。

 急性心筋梗塞とは、心臓にある動脈の「冠動脈」に異常が起こることで血液の流れが止まってしまい、心臓の細胞に血液が行き渡らなくなることで、心臓の筋肉(心筋)の細胞が死んでしまう状態のことです。とても激しい胸の痛みや、冷や汗、吐き気などの症状が現れます。

脳梗塞を引き起こす様々な要因

①糖尿病
 糖尿病は血液中の糖(血糖)が異常に高い状態となる疾患です。この、高血糖の状態が続くと結果として粥状動脈硬化(アテローム)作り出すきっかけとなります。その結果、アテローム血栓性脳梗塞のリスクが高まります。

②高血圧
 血圧が高い状態が続く状況下では当然ではありますが、血管内腔に負担を与え無数の傷を作り出します。その結果、血管そのものの硬化を招き脳梗塞の原因である動脈硬化を引き起こすリスクが高まります。

③高脂血症
 高脂血症には、コレステロールが特に多い状態になる「高コレステロール血症」と、中性脂肪が特に多い状態になる「高中性脂肪血症(高トリグリセリド血症)」、があります。この中でも、高コレステロール血症が、粥状動脈硬化(アテローム)を引き起こし脳梗塞のリスクを高めます。

④肥満
 肥満そのものが動脈硬化の原因となるのではなく、糖尿病、高脂血症、高血圧といった、動脈硬化進行因子を引き起こす要因mを持っているためです。
 
⑤生活習慣他
 高齢、体質(遺伝など)、食生活、喫煙、運動不足、飲酒などにより、動脈硬化の進行に影響が出てきます。


脳梗塞の前兆

 多くの脳梗塞は突然発症しますが、全てがそうではありません。脳梗塞には前兆・前触れとして症状が現れることがあります。
脳梗塞の前兆・前触れの症状のことを「一過性脳虚血発作(Transient Ischemic Attacks)」と言います。英語での頭文字をとって「TIA」とも呼ばれます。

脳梗塞の前兆・前触れ~一過性脳虚血発作~とは

 TIAが現れる原因は、「一過性脳虚血発作」とあるように一時的に血栓が脳の血管に詰まることで起こります。症状は多くの場合は数分(2分~15分)、長くても 1日ぐらいに消えてしまいます。これは、詰まっていた血栓が溶けることで、血流が回復するためです。
 
 しかし、TIAは自然に回復するからといって、放っておいて良いものではありません。「TIAが起こる=脳梗塞になる危険がかなり高い」ということなので、次には最悪の事態になってしまう可能性があるからです。
 
TIAが起こった人の30%以上が後に脳梗塞になっているというデータもあります。

 *TIAはすぐに治まってしまうので、「気のせい」「ちょっと疲れているのか」ぐらいにしか思わずそのままにしてしまうケースが多々あります。
TIAと思われる症状が出たらすぐに検査を受けて対処することが大切です。

脳梗塞の前兆・前触れ~一過性脳虚血発作~の症状

①片麻痺が起こる
 体の左右どちらかに麻痺(まひ)が出ます。コップや箸を落としてしまったり、うまく扱えなくなったりします。片麻痺は脳梗塞により発症する代表的な症状です。

②体の片側のしびれる
 体の左右どちらかがしびれて、感覚が鈍くなります。

③めまいが起こる
 クラッとして立っていられなくなったり、急に転んでしまったりします。起こる症状には、グルグル回っているように感じる回転性めまいと、フラフラと感じる浮動性めまいの2つのタイプがあります。

④ろれつがまわらなくなる
 自分ではしっかり話しているつもりでも、舌が回らなくなりうまくしゃべれなくなったり、言葉がうまく出てこなくなります。

⑤物が見えにくくなる
 片方の目がかすんだり、暗くなったりして見えにくくなります。これを「一過性黒内症」といいます。

⑥視野が欠ける
 視野の半分が欠けて見えなくなります。


脳梗塞の症状

 
脳に血液を供給している動脈系には、左右2本ずつの内頸動脈と椎骨動脈の2系統があります。
内頸動脈は、大脳半球に血液を供給している動脈系で、頭蓋内に入った後、前大脳動脈と中大脳動脈2本に枝分かれします。
 左右の椎骨動脈は、合わさって1本の脳底動脈となり小脳や脳幹部に血液を供給した後、枝分かれして大脳半球に入り後大脳動脈となります。
 脳梗塞の症状は、これらの動脈系のどこに発生したかにより、違ってきます。

内頸動脈閉塞の症状

 内頸動脈のうち、脳梗塞がおこりやすいのは中大脳動脈で、前大脳動脈だけに梗塞がおこるのは比較的まれです。内頸動脈が閉塞したときは、 ①つまった部位はどこか ②閉塞が急激におこったか、徐々におこったか ③障害されていない血管から、つまって血液の流れが悪くなった部位に血液を補給するルート(側副血行路)がどの程度発達しているか により、症状がほとんど現われない場合から重篤な場合までさまざまです。
 中大脳動脈のうち、脳の深部へ血液を供給している細い動脈(穿通枝)がつまったときは、つまった側とは反対側の顔面や手足のまひ、触覚や温痛覚が低下したり、過敏になったりする感覚障害がおこります。
 脳の表面(皮質)に血液を供給している動脈(皮質枝)がおもにつまったときは、まひや感覚障害が出現しますが比較的軽く、障害された側の大脳半球やその部位によって、さまざまな高次機能の異常が現われます。
 ことばがでなかったり、会話の理解ができない失語症、やろうとしている動作や行為もわかっているのに行なうことができない失行、日常使っているものやよく知っている人の顔がわからなかったり、つまった側と反対側の空間にあるものをすべて無視する失認、字が読めない失読、字が書けない失書、障害された側とは反対側の視野が見えなくなる視野障害(同名性半盲)などの症状が現われることがあります。
 中大脳動脈の根もとがつまったときは、穿通枝も皮質枝もともに障害を受けることが多く、意識障害が強く出現して、脳が腫れ上がり(脳浮腫)、死亡したり、後遺症が強く残ったりする場合もあります。
 細い脳血管である穿通枝の梗塞は、ラクナ梗塞と呼ばれ、欧米人に比べて日本人に多く、予後は良好です。
 一方、皮質枝にもおよぶ太い脳血管におこった脳血栓はアテローム血栓性脳梗塞といい、人種や食事のちがいからか欧米に多く、予後はさまざまです。心原性脳塞栓は、皮質枝の梗塞が多く、脳血栓よりも重症のケースが少なくありません。

椎骨脳底動脈系閉塞の症状

 めまい、吐き気、嘔吐、頭痛、ろれつが回らない、飲み込みにくいなどの症状のほか、手足のまひ、力は入るのに手足が思いどおりに動かず、立ち上がれない失調症、動かそうと思わないのに手足がひとりでに動いてしまう不随意運動、口のまわりや手の先、半身の感覚が鈍くなったり過敏になる感覚障害、片側の視野が見えなくなる半盲などがおこります。
 脳底動脈の広い範囲に梗塞がおこると(脳底動脈血栓症)、生命中枢のある脳幹部が障害され、意識障害に加えて両方の手足のまひがおこります(四肢まひ)。その後、呼吸状態が悪くなり、重篤な病状になります。


脳梗塞の検査

身体所見(神経学的所見)

 上記の巣症状のほか、上位中枢の障害を示唆する錐体路徴候(腱反射の亢進、バビンスキー反射の出現)や眼球運動異常などから梗塞部位が推測できます。神経学的所見から脳梗塞(脳卒中)の客観的な重症度を記載する方法として、いくつかのスケールが提唱されています。最も簡便で臨床的に多用されているのはNIHSS(National Institute of Health Stroke Scale)です。これは超急性期の血栓溶解療法を実施する際には必須の項目となっています。

検査所見

 一般的な血液検査上は特徴的な所見はありませんが、血栓性では血小板機能を調べると亢進していることがあります。ただし、血液検査から高脂血症・糖尿病などの基礎疾患を評価する意義は大きくあります。超急性期の血栓溶解療法を実施する際には高血糖や低血糖などの絶対禁忌項目があるため、血液検査は必須となります。

画像所見

CT
 レントゲンで使うX線を利用して身体の輪切りの形を写真にする検査です。外からは見えない脳の中の様子がわかります。左側の写真がCTです。黒い矢印で示したところが小さな脳梗塞です。大抵の脳の異常はこの検査でわかります。造影剤を使ってより詳細に脳や脳の中の血管の様子を調べることもできます。最近ではコンピューターを利用して断面だけでなく、立体的な形なども表示できるようになりました。

MRI
 強力な磁石を利用してCTと同じように身体の断面の形を写真にします。CTと違って輪切りだけでなく、縦切り、横切り、斜め切りなどどのような方向の断面の写真も簡単に撮ることができます。CTよりも脳の状態が詳しくわかります。時にCTではわからないような脳梗塞もありますが、このような場合でもMRIでわかることがあります。

MRA
 MRIと同じ装置で行う検査です。MRIは身体の断面を写真にしますが、MRAは血管の形そのものを写真にします。前後、左右、上下、斜め、など任意の角度から見た血管の形を知ることができます。

脳血管撮影
腕や大腿の血管からカテーテルという細い管を入れ、最終的に脳へいく血管の中にカテーテルの先を送り込みます。この状態でカテーテルを通じて血管の中に造影剤という薬を注入してX線を利用して血管を撮影する検査です。脳内の主な血管の様子などは造影剤を使ったCTやMRAでわかるのですが、実際に血液が流れている様子や細い血管の状態、静脈などは脳血管撮影を行わないとわからないこともあります。また、CTやMRIではよくわからなかった病気が脳血管撮影ではっきりすることもあります。

 この検査のメリットはもうひとつあります。検査中に詰まった血管がわかった時に、状況によっては詰まった血管のところまで細いカテーテルを入れ、血栓を溶解させるような薬を注入して血栓を溶かして詰まった所を再開通させる治療が速やかにできることです。このような治療も可能になったので、脳梗塞の治療成績は年々向上しています。


脳梗塞の治療

内科的治療

 残念ながら脳梗塞が完成してしまうとその部分の脳はもとには戻りません。しかし、脳梗塞が完成してしまう前に血流を再開することができれば回復は可能です。また、血管が詰まったままでも周りから血流が補うことができれば、完全な脳梗塞にはならずに済んだり、脳梗塞になっても最小限の障害で済んだりします。そのため、麻痺などの神経症状が出てから間もない時は血栓や塞栓を溶かす薬を使ったり、血栓や塞栓を出来にくくする薬を使ったりします。このような治療を内科的治療と呼んでいます。多くの場合、内科的治療だけでもかなりの治療効果が期待できます。

外科的治療

 「手術で脳梗塞が治らないか?」と疑問に思われる方はいらっしゃるかと思いますが、先に述べた通り完成してしまった脳梗塞はどのような治療をしても元通りにはなりません。しかし、血流が不足しているだけでまだ完全な脳梗塞になっていないような場合は血流が補うような手術で脳梗塞を防ぐことが可能なケースがあります。また、発症して間も無い時にはカテーテルを使って詰まった血管の血流を再開通させることで症状を改善させることができるケースがあります。脳血流を改善させる手術で代表的なものは、頚部の頚動脈に対する血栓内膜剥離術とバイパス手術です。これらの外科手術は主として将来の脳梗塞の発症や悪化を防ぐ目的で行われることが多く、病状が比較的落ち着いている時に行われることがほとんどです。脳梗塞が起こって間もない急性期に行われることは稀です。
 
血栓内膜剥離術:頚部の頚動脈にはしばしば動脈硬化によって狭窄が起こります。このため、脳へ行く血液が不足したり、動脈硬化の部分に出来た小さな血栓が塞栓になって脳の血管を。このような時に動脈硬化の部分を削り取って頚動脈の狭窄を治す手術です。実際に脳梗塞の症状がある場合で狭窄の程度が70%以上ある時は内科的治療よりも手術の方が勧められます。また、症状が無いような場合でも狭窄の程度が60%以上の時はこの手術に熟練した脳外科医が行うのであれば内科的治療よりは手術の方が勧められています。

バイパス手術:脳の血管が詰まると普通は脳梗塞になりますが、時に脳梗塞にならずに助かっていることもあります。このような場合でも、助かった脳の血液が不足しているといずれ脳梗塞になってしまう恐れがあります。このような時に頭の皮膚の血管と脳の血管をつないで脳の血流を増やそうとする手術です。1980年代に行われた国際共同研究で脳梗塞に対する予防的効果については内科的治療を上回ることはないという見解が出たため、最近では以前に比べてあまり行われなくなりました。しかしながら、バイパス手術を行うことで血流が増えることは事実です。個々の患者さんの状況を注意深く調べてみると、中には内科的治療よりも効果が期待できるケースもあると思われます。そのため、脳血流の状態を詳しく評価した上で効果が期待できる時には行っています。

脳梗塞の予後

 脳梗塞を起こして壊れた神経細胞は、生き返ることはありません。 このため、脳梗塞を起こした場所や広がりによって、後遺症としてさまざまな障害が現れてきます。 これらには脳梗塞による直接的な障害だけでなく、脳梗塞の合併症からの障害も加わってきます。 さらに、後遺症や転倒によって寝たきりの状態を余儀なくされ、身体の機能が低下していくことも少なくありません。
日本人の死亡数全体に占める脳卒中の割合は14%と死因の第3位で、そのおよそ60%を脳梗塞で占めています。 また介護が必要になった人のうち、脳卒中が主な原因であった人は約30%を占め、第1位となっています。
 これらの統計とは逆に、脳梗塞の発作を起こした人の側からみた、予後を調査した報告もあります。 脳梗塞の発作を起こしてから7日以内に全国の156病院に入院した、約17,000人の患者さんを対象として調査が行われたものです。 この調査では、
● 退院して自宅に帰ることができた人 約60% 
● 退院時に杖なしで歩くことができた人 約60%
● 退院時にまったく障害が残らなかった人 約20%
● 退院時に日常生活に介助を要する状態の人 約30%
● 入院中に亡くなった人 7%

となっています。 さらに翌年に行った追跡調査では、生存者のうちおよそ3分の1の人が日常生活で介助を必要とする状態にあり、5%の人が亡くなっていました。
これらの統計データから、脳梗塞をはじめとする脳卒中は、たとえ発作直後の時期を生き延びることができても、患者さんとその家族は、後遺症によってそれ以前の生活とは比較にならないほど生活の質が低下し、社会的なハンディキャップを負うことが多い現状が確認できます。

脳卒中の後遺症

  脳卒中の後遺症は、様々なものがあります。なぜなら、脳は場所により担当する機能が違うため、出血により侵された個所による症状が異なるためです。
 言葉をしゃべる、食事をする、歩く、見る、など、脳の場所により機能は異なります。そのため、その機能をもつ個所が侵されることで、それらの機能が低下或いは機能祖ものが失われてしまいます。しかし、脳梗塞になったからと言って、必ずしも後遺症が残るとはかぎりません。時間の経過や出血を引き起こした個所により後遺症が残らないこともあるのです。しかし、後遺症が残らないケースはとても低く全体の20%と言われています。

 脳卒中による症状・後遺症の種類は大きく分けると、「神経症状」、「高次脳機能障害」、「感情障害」などがあります。

1、脳卒中の後遺症~神経障害~

 神経障害とは、身体機能に起こる障害をいいます。脳卒中でよく見られる神経障害は、「言語障害」、「運動障害」、「感覚障害」、「視野障害」、「排泄障害」、「嚥下障害」などがあります。

①言語障害

 神経症状の 1つである言語障害は、脳の言語に関する機能を支配している部分に損傷を受けることでおこる「失語症」と、口の周りや口の中がマヒしてスムーズに話すことができなくなる「構音障害」の2つがあります。

「失語症」
 失語症とは、脳の言語中枢に障害が起こると発症します。話すことや、言葉を理解する、聞く、読む、などの言語に関すること全てが上手くできなくなります。言語中枢は左脳にあるため、左脳に出血が起こると、失語症になることがあります。
 失語症には、「運動性失語(ブローカ失語)」、「感覚性失語(ウェルニッケ失語)」、「健忘失語」、「伝導失語」、「全失語」、があります。

・運動性失語
 相手の話していることが理解できても、それに対して思った通りに話せなくなる症状です。主に発音がうまくできなくなります。大脳の前頭葉にあるブローカ領域と呼ばれる部分に障害が起こることで発症するため、「ブローカ失語」とも呼ばれます。

・感覚性失語
 話すことはできますが、相手の話していることが理解できないため、的はずれなことを答えをしてしまう症状です。大脳の側頭葉にあるウェルニッケ領域と呼ばれる部分に障害が起こることで発症するため、「ウェルニッケ失語」とも呼ばれます。

・健忘失語
 聞いて理解する力はしっかりありますが、言葉がうまく思い出せないため、回りくどい言い方や話し方になってしまう症状です。

・伝導失語
 聞いて理解する力はしっかりありますが、錯語が多くなってしまいます。錯語とは、言葉を言い間違えることで、「めがね」を「めがめ」というように言い間違えたり、「めがね」を「とけい」などの他の単語に言い間違えてしまったりする症状です。

・全失語
 重度の失語症で、「聞く・話す・読む・書く」などを意味のある言葉で表現することがほとんどできない、もしくは無言になる状態です。聞いて理解する能力に関しては、ほとんど失ってしまう重度な場合からある程度は保たれている場合まで様々です。脳の中大脳動脈全域が障害されると起こります。

「構音障害」
 構音障害とは、話すために必要な筋肉の運動障害のことをいいます。顔の筋肉、唇(くちびる)、口の中などの言葉を話すための筋肉が麻痺してうまく話せなくなります。
 しかし、失語症とは違い、言語中枢に障害を起こしているわけではないため、言葉を理解したり、文字を書いたり、本を読んだりすることはできます。

①弛緩性構音障害
 相手の話していることを理解して、それに対して答えることができますが、舌が回らないため、うまく話すことができない症状をいいます。この症状は脳の大脳や脳幹が障害されると起こります。

②失調性構音障害
 話をしたときに、リズムが乱れる、つっかえる、繰り返しの言葉がうまく言えない、などの症状が起こるものです。小脳に障害が起こると見られます。

②運動障害

 脳卒中の運動障害とは、顔を含む体の左右のどちらかの手足が麻痺する片麻痺です。脳卒中の症状(後遺症)として片麻痺はいちばんよく見られるものです。
 運動障害は、大脳の運動中枢や大脳・脳幹の運動神経の経路が障害により侵されることにいより起こります。麻痺の程度は、まったく動かすことができなくなるものから、手足の先の細かい動きがうまくいできなかったり、筋肉が重く突っ張ったように感じる程度の軽いものまで様々です。
 また、自分の意志とは別に、手足などの身体の一部もしくは全体が動いてしまい、止めようと思っても止められないという後遺症が残ることもあります。これは「不随意運動」といい。マヒの無い側に力を入れているのに、マヒしている側の手や足が勝手に動いてしまうという症状です。
 小脳が損傷を受けると、めまいがする、ふらふらする、バランスが悪くなって歩くことがうまくできない、などの症状(運動失調)が起こります。

 症状の程度にもよりますが、リハビリテーションにより改善できる場合もあります。ただ、手足の先の麻痺は残ってしまうことが多くあります。麻痺の種類には、片麻痺以外にも、手もしくは足の左右どちらかだけ麻痺する「単麻痺」、両足が麻痺する「対麻痺」、両手両足が麻痺する「四肢麻痺」などがあります。

③感覚障害

 脳卒中による感覚障害とは、体の半身の感覚が鈍くなる、しびれや痛みを感じるなど、感覚に関する症状が突然起こります。しびれや痛みは、完治の難しい後遺症です。
 感覚に関係する神経は、運動に関係する神経とほとんど同じ経路を通っているため、麻痺などの運動障害が起こると、感覚障害も同時に起こることが多くなります。そのため、ほとんどの場合、感覚障害は片麻痺と同じ側に起こります。
 
 また、脳の梗塞した場所や出血した場所によっては、麻痺は起こらず、しびれだけが後遺症として残ることもあります。

④視野障害

 脳卒中による視野障害とは、視野が狭くなる、視野の半分が見えない(半盲)などの状態となります。
半盲は、脳梗塞を発症するとよく見られます。半盲とは、片目、もしくは両目で見ても視野の左右どちらかの半分(または4分の1)しか見えなくなってしまいます。
 さらに、視力の低下や、物が二重に見える「複視(ふくし)」などが起こることもあります。

⑤排泄障害

 脳卒中により排尿をコントロールしている脳の部分(大脳・脳幹)が損傷を受けると起こることがあります。排泄障害として起こる症状は、尿の回数が多くなる「頻尿」、尿をもらしてしまう「尿失禁」、尿意を感じない、尿が出ない、などがあります。
 「頻尿」は、おしっこをする間隔が短くなり、すぐに尿意を感じるようになるもので、脳梗塞にはよくみられる症状です。
 また、頻尿になることで、トイレまで我慢できずもらしてしまう「尿失禁」が起こることもあります。

⑥嚥下障害

 嚥下障害(えんげ しょうがい)とは、食べ物や飲み物を上手くの飲み込めなくなる状態をいいます。つばもうまく飲み込めないので、よだれがたれやすくなります。
 脳卒中の後遺症としての嚥下障害は、飲み込むなどの運動を支配している神経に障害が起こると発症します。急性期脳卒中の半分以上の患者さんに見られると言われています。ただ、意識が正常に回復してくると嚥下障害も大半は回復しますが、後遺症として残ってしまうこともあります。
 
嚥下障害は脳梗塞によりよく見られる症状・後遺症です。

 また、食べ物や飲み物が気管に入りやすくなってしまうことで、唾液や胃液と共に細菌が肺に流れ込んで生じる「誤嚥性肺炎」が起こりやすくなります。

 誤嚥性肺炎は、高齢者の脳卒中での死亡原因の 1位となる危険なものなので、注意が必要です。


2、脳卒中の後遺症~高次脳機能障害~

 高次脳機能障害とは、言語・記憶・思考・行為・学習・注意、などに障害が起きた状態のことです。身体に症状がでるような目に見えるような症状ではないもの、例えば、言葉を理解して話したり、物事を判断したりするなどの高次な精神活動が難しくなります。

 脳卒中により見られる高次脳機能障害は、「言葉の障害」、「記憶の障害」、「行為の障害」、「認知の障害」、などがあります。

①言語障害

 神経症状の 1つである言語障害は、脳の言語に関する機能を支配している部分に損傷を受けることでおこる「失語症」と、口の周りや口の中がマヒしてスムーズに話すことができなくなる「構音障害」の2つがあります。

 言語障害については、「脳梗塞の後遺症~神経障害(言語障害)~」をご覧ください。

②記憶障害

 記憶障害とは、記憶保持の障害(過去に記憶したことを忘れてしまう)、再生力の障害(直前のこと・過去のことが思い出せなくなる)、記銘力の障害(新しいことを覚えられなくなる)等の障害がおこります。記憶に関する能力のすべてが弱くなる場合もあります。

③行為障害(失行障害)

 失行とは、麻痺やしびれなどの症状がない(運動機能の障害が無い)のに、自分の行いたい動作や行動が正確にできない状態をいいます。失行には、「運動失行」、「観念失行」、「構成失行」、「着衣失行」、など色々なものがありますが、日常生活に大きく関わる失行は、「運動失行」と「着衣失行」です。

「運動失行」
 日常生活の簡単な動作がうまくできなくなります。複数の道具を順番通りに使う(歯ブラシに歯磨きをつけて磨く)などの行為もできなくなります。

「着衣失行」
 服の着脱に関する障害です。服を着るときに上手く着られなかったり、服の前後を逆に着てしまったりします。

④認知障害(失認障害)

 失認とは、感覚障害(視覚・聴覚・触覚など)が無いのに、知っているはずの物が何であるかわからなくなる状態です。失認には、「視覚失認」、「身体失認」、「聴覚失認」、「触覚失認」、「病態失認」など様々なものがありますが、日常生活に大きく関わる失認は、「物体失認」、「聴覚失認」、「半側空間無視」、「他誌的障害」、などです。

「物体失行」
 視覚失認の一つで、対象物がよく知っているものでも、何だかわからなくなってしまう状態です。対象物を見ただけではそれを認知できないが、音を聞かせることや、触らせることで認識できます。

「聴覚失行」
 よく知っているはずの音(電話の音、インターホンの音など)が何なのかわからない状態です。

「半側空間無視」
 空間の右側もしくは左側どちらかが認識できなくなる状態です。認識できない側の壁や物が認識できないので、物があるのに気付かなかったり、歩いていて壁にぶつかったりしてしまいます。本人は、半分無くなったという感覚や自覚を全く持っていません。脳の右半球への障害により、左半側空間無視が起こることが多いです。

「地誌的障害」
 地誌的障害とは、道順がたどれなくなったり、よく知っている道で迷うという「地誌的見当識障害」と、地図で場所の位置を示したり、地理的な位置関係を言で説明したり示したりできなくなる「地誌的記憶障害」の 2種類に分けられます。

⑤注意障害

 注意障害とは、注意力・集中力が欠けて、集中して物事を行えない、行ってもミスが多い、ぼんやりした状態で、まとまりのある思考や会話ができない、我慢ができなくなる、などの状態です。本人には自覚がありません。脳の右半球が広範囲に損傷されることにより現れるといわれています。


3、脳卒中の後遺症~感情障害(気分障害)~

 感情障害とは、気分や感情の変化を基本とする障害で感情が不安定になる状態です。感情が高ぶったり(イライラする、怒りっぽくなる)、逆に気分が沈んだり意欲が低下したりします。

 また、気分障害の一種である「鬱病(うつびょう)」になる場合もあります。鬱病とは、気持ちの落ち込みが長く続き、心の持ちようや精神力がコントロールできなくなる病気です。抑うつ気分や不安感、焦燥感、精神活動の低下、不眠、食欲の低下、などを特徴とする精神疾患です。
 脳卒中による鬱病は、後遺症により今までできていたことがうまくいかないためのショックから起こったり、脳の機能が損傷したために起こったりします。

①気分障害(うつ病)

 脳卒中になると、イライラして怒りっぽくなったり、意欲が低下して気分が落ち込んでしまうなど、気分や感情が不安定になる「気分障害(感情障害)」が起こることがあります。

 気分障害とは、異常に興奮して活動的になる「躁」と、異常に落ち込み、意欲が無くなりやる気がしなくなる「鬱」のどちらかの感情に支配されてしまうことで理性を失い、判断力も落ちてしまう状態のことです。脳卒中になることで、後遺症などにより日常生活がうまくいかなくなり、その現実を受け止められないために、患者さんが落ちこんで喪失感から「うつ病」になりやすくなります。
 また、脳卒中による鬱病の発症は、梗塞や出血などの異常が起こった脳の場所にも関連があるのではないかとも言われています。

 うつ病の症状は、意欲がなくなる、やる気がなくなる、不安を感じる、イライラする、だるい、食欲がなくなる、眠れなくなる、死にたくなる、などです。
 脳卒中になった方には、高い確率でうつ病が起こります。うつ病になってしまうと、リハビリに対してもやる気がなくなってしまうため、うつ病の治療もしっかり行う必要があります。脳卒中によるうつ病の治療は、薬による薬物療法を行います。


脳卒中の後遺症に対するリハビリテーション

脳梗塞が起こると、様々な後遺症が残ることがあります。後遺症の程度は、出血の量や脳の場所により違いがあります。後遺症が残ると、日常生活に影響がでてきます。麻痺などが起これば、手足などの動きが以前のようにスムーズにはいかなくなってしまいます。
 そのため、後遺症を改善して日常生活への影響をできるだけ少なくしたり、後遺症があってもなるべく自分の力で日常生活を送れるように訓練するために「リハビリテーション」をおこないます。

リハビリテーションとは
 「リハビリテーション」とは、「機能回復」、「社会復帰」という意味があります。
 リハビリテーション医療は、後遺症のために障害を受けた言語や運動の機能を回復させるため様々な訓練を行い、よりよい社会復帰の手助けをするための医療全般のことをいいます。つまり、リハビリテーションをしっかり行うことは、歩く、話す、手足を動かすなどの「日常生活の動作(ADL)」を回復させ、「生活の質(クオリティ・オブ・ライフ:QOL)」を高め、社会復帰を目指すという大きな目的のためなのです。

1、急性期のリハビリテーション

 脳梗塞における急性期とは、脳卒中が発症してから 1~2週間ぐらいまでの時期をいいます。脳卒中を発症した後、重大な合併症がなければ入院した日、もしくは翌日からベットサイドでリハビリテーションを開始します。
 急性期のリハビリテーションの目的は、「廃用症候群(廃用性萎縮)」を予防することです。廃用症候群(廃用性萎縮)とは、長い間機能を使わないことで、筋肉がやせたり、関節が固まって動かしにくくなる状態をいいます。

 そのため、この廃用症候群(廃用性萎縮)を予防するために、
①手足を正しい位置に保つ「良肢位保持」
②手足の関節を動かして関節や筋肉が固まって動かなくならないようにする「関節可動域訓練」
③床ずれを防ぐ「体位変換」
などを行います。
 
 病状が落ち着いてきたら、
①座る姿勢を保つ訓練の「座位耐性訓練」
②食べ物や飲み物を飲み込む訓練の「嚥下訓練」
なども行います。

 急性期のリハビリテーションによりベットを離れることができるぐらい回復してきたら、日常生活で必要となる基本動作のリハビリテーションに進みます。

*回復期のリハビリテーションを始める前に、症状や状態を調べる「スクリーニング」が行われます。スクリーニングにより、回復期のリハビリテーションをはじめることが出来るか確認します。
 スクリーニングでは、意識障害、感覚障害、運動障害の程度や関節がどれぐらい曲がるのか、血圧・呼吸・脈拍などのバイタルチェック、脳卒中以外に病気(高血圧・糖尿病・心臓病など)を持っているか、など調べます。スクリーニングにより問題が発見された場合や回復期のリハビリを始めることができないと判断された場合、廃用症候群(廃用性萎縮)を予防を行いながら、問題に対する治療を続けます。
 問題がなければ、回復期のリハビリテーションへと進みます。


2、回復期のリハビリテーション

 回復期のリハビリテーションは、衣服の脱ぎ着、食事、歩行など、日常生活に必要な動きができるようにしていくことが目的です。
 脳卒中が発症してから、 2週間ぐらいたつと、症状がある程度安定してきます。症状により個人差はありますが、ベットから起きあがり、立ち上がれるようになるなど、「ADL(日常生活動作)」もすこしづつ回復してきます。同時に後遺症や障害が残っているのかが、はっきりしてくる時期でもあります。
 回復期のリハビリテーションをしっかり行うために、どんな後遺症や障害があるのかや、その後遺症がどの程度なのかなどの「ADL(日常生活動作)」を調べる必要があります。対象となる障害は、「機能障害」、「能力低下」、「社会的不利」、の 3つです。
 
「機能障害」
 マヒ(麻痺)・関節がうまく動かない・しびれ・失語症などにより精神機能や身体機能が低下していたり、失われている状態

「能力低下」
 機能障害により歩行、食事などの日常生活の能力が低下している状態

「社会的不利」
 機能障害や日常生活の能力が低下することで、仕事や家庭での生活におこる問題のことです。

 この 3つについて調べて、回復期のリハビリをどのように行っていくかを決定します。
 回復期リハビリテーションでは、運動障害、言語障害、高次脳機能障害、の回復を行います。

①回復期のリハビリテーション~運動障害~

 運動障害へのリハビリテーションは、歩行訓練や作業療法を行います。

「歩行訓練」
 まず立てるように訓練し、次に杖をつかって歩く訓練、そして杖無しで歩く訓練と進んで行きます。
脳卒中の運動障害としては、身体の左右どちらかの半分がマヒする「片麻痺(片マヒ)」がいちばん多く見られる症状です。片麻痺があると日常生活に大きく影響をあたえますので、なるべく回復するように努めます。リハビリをしっかり行っていくことで、80%前後の人が歩けるようになると言われています。

「作業療法」
 人間が日常生活の中で行なう全ての行為・行動・活動・動作を回復させるために行うものです。物をつかんだり指を動かす作業や、食事、入浴、排泄、家事、などを行うことで、マヒしたり動きが悪くなってしてしまった身体の機能をできるだけ回復していきます。

 後遺症の程度やその回復具合は個人差がありますので、後遺症が残ったとしても、その中で日常生活ができるように患者さんに合わせて訓練していきます。

②回復期のリハビリテーション~言語障害~

 言語障害の多くは、脳の左半球の言語を支配している場所(言語野)が損傷を受けることで起こります。言語障害は、話したり、相手の言っていることを理解したりなどの言葉に関する能力に影響が出てきます。そのため、言語障害になると人とのコミュニケーションがむずかしくなり、日常生活や社会生活に問題がでてきますので、リハビリテーションをしっかり行って、なるべく言語障害を解消することが重要となります。また、言語障害が残ってしまったとしても、その中でコミュニケーションを行える方法を身につけていきます。
 言語障害には大きく分けて、「失語症(しつごしょう)」と「構音障害(こうおん しょうがい)」の 2つの種類があります。

「失語症」
 聞く・話す・読む・書く、などの言語機能が障害されるもの。

「構音障害」
 舌・唇、あご、などの話すことに関わる筋肉の運動に障害が起こることで正しい発音ができなくなるものです。
(失語症と構音障害についてくわしくは「1、脳卒中の後遺症~神経障害~」をご覧下さい。

 失語症と構音障害には違いがあるため、リハビリの方法もそれに適した方法を行っていく必要があります。

 言語障害の訓練は、言語聴覚士がビデオや録音機、カードなどを使ってリハビリテーションを行います。失語症のリハビリテーションは、話す、聞く、読む、書く、などの能力を回復するために行います。失語症のリハビリテーションは、なるべく早くおこなうほうが良いとされています。これは、脳卒中が発症してから 2週間の間がいちばん改善しやすいとされているためです(時間がたつにつれて回復が難しくなります)。
 しかし、だからといってあせりは禁物です。失語症のリハビリはじっくりと行っていくことも大切。根気よく続けていけば、少しずつ回復していく可能性があります
 構音障害のリハビリテーションは、話しをするための筋肉をトレーニングしていきます。

③回復期のリハビリテーション~高次脳機能障害~

 高次脳機能障害とは、病気やケガなどで脳に損傷を受けたために、的確な表現や記憶がうまくできなかったり、注意力や集中力の低下したり、感情や行動の抑制がきかないなどの症状が現れるものです。
 高次脳機能障害があると、周りの状況に適した行動をすることができず、生活に支障をきたすようになります。
 また、本人がこの障害があること自覚しずらく、見た目でも障害があるかどうかがわかりずらいため、ある状況にならないと高次脳機能障害があるということに気づきずらいという特徴もあります。

 高次脳機能障害についてくわしくは「2、脳卒中の後遺症~高次脳機能障害~」、をご覧下さい。

 高次脳機能障害へのリハビリテーションは、「認知リハビリテーション(認知リハ)」と呼ばれるものがあります。認知リハビリテーションを行い、患者さんがどの能力に障害があるのかを判断し、その能力を回復させるようにします。回復が難しい場合は、正常な部分で補えるように訓練していきます。
 たとえば、記憶障害により新しいことを記憶することがむずかしい場合は、メモ書きをするようにしたり、認知活動をしないで済むように、周りの環境を調整したり変えたり(物の色分け、引き出しに名前をつけるなど)していきます。
 また、高次脳機能障害でよくみられる、右脳の障害により左側の見えているはずのものを認知できず無視してしまう「左半側空間無視」では、日常生活を左側からはじめたり(靴を左側からはくなど)、日常生活で使うものを左側に置くなどして、左側への注意力を高めていきます。それでも改善しない場合は、認知できる右側をうまく使って日常生活が行えるようにします。


3、維持期のリハビリテーション

 回復期のリハビリテーションが終わると、維持期のリハビリテーションを行っていきます。自宅での生活が難しい場合は、別の施設へ移ってリハビリテーションを行います。
 維持期のリハビリテーションのために別の施設を探す場合は、回復期の間に次に移る施設を決めておく事が必要です。自宅に帰ることができる場合は、患者さんの状態にあわせて自宅の段差や手すりを付けるなどの改造が必要となりますので、なるべく早い段階から準備が必要です。
 維持期のリハビリは、生活そのものがリハビリです。

 自宅での生活には、歩くだけでなく、食事や歯みがきなどによる道具を使うことや、ドアを開ける、階段を上る、段差を上がる、トイレ、入浴、着替え、など、さまざまなことがあります。

 日常生活では、ご家族の協力も大切ですが、患者さんが自分自身でできることは行っていくようにしないと、せっかく回復期に苦労してリハビリを行って回復したものが、また身体が動かなくなってしまいます。そのため、どうしても出来ないことはご家族に助けてもらうようにして、後はなるべく自宅を改造するなどして環境を整えることで、自分でできるように生活していくことが大切です。リハビリテーションの維持期とは、回復期で回復した機能が衰えないように維持することにあるので、日常生活をなるべく自分で行っていくことで、身体の機能・能力をできるだけ維持するためのリハビリになるのです。

 ただ、無理すると転んだりして思わぬ怪我をすることもあるので注意が必要です。自宅でのリハビリテーションでは、何については手を貸して、何については手を貸さず見守り、何については自分一人でできるのかを明確にするようにしましょう。


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