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乳がんの症状・検査・治療について

乳がんの症状・検査・治療について

 年齢別にみた女性の乳がんの罹患(りかん)率は30歳代から増加し始め、50歳前後にピークを迎え、その後は次第に減少します。女性では、乳がんにかかる数は乳がんで死亡する人の数の3倍以上です。これは、女性の乳がんの生存率が比較的高いことと関連しています。男性の乳がんは、年間の死亡数で女性の乳がんの100分の1以下のまれながんですが、女性の乳がんに比べて生存率が低い(予後が悪い)ことが知られています。

 乳がんの発生、増殖には、性ホルモンであるエストロゲンが重要な働きをしています。これまでに確立されたリスク要因の中には、体内のエストロゲンレベルに影響を与えるようなものがほとんどです。実際に体内のエストロゲンレベルが高いこと、また、体外からのホルモンとして、経口避妊薬の使用や閉経後のホルモン補充療法によって乳がんのリスクが高くなる可能性があるとされています。

 生理・生殖要因としては、初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産歴がない、初産年齢が遅い、授乳歴がないことがリスク要因とされています。また、閉経後の肥満は確立したリスク要因ですが、閉経前乳がんについては、逆に肥満者でリスクが低くなることがほぼ確実とされています。

 飲酒習慣により、乳がんのリスクが高くなる可能性があるとされ、また、閉経後の女性では運動による乳がんリスク減少はほぼ確実とされています。その他の食事、栄養素に関しては、野菜、果物、イソフラボン等が注目されているものの、十分に根拠がそろっているものはまだありません。


乳がんの症状


①乳房のしこり
 乳がんは5mmぐらいから1cmぐらいの大きさになると、自分で注意深く触るとわかるしこりになります。しかし、しこりがあるからといってすべてが乳がんであるというわけではありません。

②乳房のえくぼなど皮膚の変化
 乳がんが乳房の皮膚の近くに達すると、えくぼのようなくぼみができたり、皮膚が赤く腫(は)れたりします。乳房のしこりが明らかではなく、乳房表面の皮膚がオレンジの皮のように赤くなり、痛みや熱感を伴う場合、「炎症性乳がん」と呼びます。炎症性乳がんがこのような外観を呈するのは、乳がん細胞が皮膚のリンパ管の中に詰まっているためであり、それだけ炎症性乳がんは全身的な転移をきたしやすい病態です。

③乳房の近傍のリンパ節の腫れ
 乳がんは乳房の近傍にあるリンパ節、すなわちわきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)、胸骨のそばのリンパ節(内胸リンパ節)や鎖骨の上下のリンパ節(鎖骨上リンパ節、鎖骨下リンパ節)に転移をきたしやすく、これらのリンパ節を「領域リンパ節」と呼びます。領域リンパ節が大きくなってくるとリンパ液の流れがせき止められて腕がむくんできたり、腕に向かう神経を圧迫して腕のしびれをきたしたりすることがあります。

④遠隔転移の症状
 転移した臓器によって症状は違いますし、症状が全くないこともあります。領域リンパ節以外のリンパ節が腫れている場合は、遠隔リンパ節転移といい、他臓器への転移と同様に扱われます。腰、背中、肩の痛みなどが持続する場合は骨転移が疑われ、荷重がかかる部位にできた場合には骨折を起こす危険もあります(病的骨折)。肺転移の場合は咳が出たり、息が苦しくなることがあります。肝臓の転移は症状が出にくいですが、肝臓が大きくなると腹部が張ったり、食欲がなくなることもあり、痛みや黄疸が出ることもあります。


乳がんの検査

 30歳代から高齢の女性ほど罹患率が高い為、今日では多くの国で検診を受けることが推奨されています。
 検診には胸部自己診断法 (breast self-examination) とマンモグラフィー (mammography) も含まれます。マンモグラフィーは早期乳癌を発見する為の選択肢のひとつであり、これひとつですべての年齢、すべての乳癌の、早期発見がカバーできるものではありません。欧米では生涯乳癌リスクが20%以上の女性に対して造影剤を用いたMRIによるスクリーニングが推奨されています。日本では現在、40代における超音波検査の併用検診の効果について大規模な臨床研究が行われています。CTはX線被曝や費用の問題もあり、検診に用いられることは希です。
 
 

乳がんの治療

 乳癌の治療は原則的には外科的切除であり、抗がん剤や抗エストロゲン剤など化学療法と放射線療法が併用されます。

外科手術
 手術StageⅠ~ⅢAに対して適応となります。最近では、乳房温存術と乳房切除術とでは予後に差が無いことが報告されてきており、手術は拡大手術ではなく縮小手術が行われる傾向にあります。
①乳房温存術(lumpectomy 腫瘤のみを摘出 乳腺腫瘤摘出術)
②乳房切除術(mastectomy 乳房を切除ないし完全に切除する)
③胸筋合併乳房切除術
④胸筋温存乳房切除術

 腫瘤の大きさによって切除範囲が選択されるため、>3cm以上の大きな腫瘤や、胸壁や皮膚へ直接浸潤しているような進行している場合には広範囲切除となる。切除断端陽性(遺残)が再発の高リスクであるため出来る限りの腫瘤摘出が望まれる。

手術の際には、リンパ節郭清として、センチネルリンパ節生検(sentinel lymph node biopsy)が行われ、リンパ節転移のある場合に腋窩リンパ節郭清が行われる。


放射線療法
 乳房温存術後の局所再発の予防を目的とした乳房全照射が行われます。 転移および再発における症状緩和を目的とした照射があります。


化学療法
 術後化学療法は再発リスク評価に応じて適用され、内分泌薬・抗がん剤・分子標的治療薬の3種類を用いて行われます。また術前化学療法も行われる。また再発・転移性乳癌においても化学療法が行われます。

内分泌薬
  乳癌はエストロゲン依存性であることが多いことから、エストロゲン受容体(ER)・プロゲステロン受容体(PgR)の発現の高いものは内分泌薬が奏功する。
抗エストロゲン薬:タモキシフェン
アロマターゼ阻害薬:アナストロゾール・エキセメスタン・レトロゾール
LH-RH作用薬:閉経前後で以下の通りに行われる。
1.閉経前女性:抗エストロゲン薬+LH-RH作用薬
2.閉経後女性:抗エストロゲン薬 or アロマターゼ阻害薬

抗がん剤
 以下の通りに行われる。基本的にER/PgR発現の低いもの(陰性)の場合に行われる。
CMF(シクロホスファミド+メソトレキセート+フルオロウラシル)
CAF(シクロホスファミド+アドリアシン+フルオロウラシル)
AC(アントラサイクリン系:ドキソルビシン+シクロホスファミド)
分子標的治療 ヒト上皮成長因子受容体2(HER-2)陽性の場合、分子標的治療薬が奏功する。 トラスツズマブ:HER-2モノクローナル抗体
ラパチニブ:EGFR・HER-2低分子阻害薬


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